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牛鍋

著 森鷗外

ぐつぐつ煮える牛鍋を、男と女と子供が囲んで箸を争う。

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原文の言語:日本語レベル:中級1,894 字 · ≈ 8 分出典:青空文库

冒頭

鍋はぐつぐつ煮える。

牛肉の紅は男のすばしこい箸で反される。白くなった方が上になる。

斜に薄く切られた、ざくと云う名の葱は、白い処が段々に黄いろくなって、褐色の汁の中へ沈む。

箸のすばしこい男は、三十前後であろう。晴着らしい印半纏を着ている。傍に折鞄が置いてある。

酒を飲んでは肉を反す。肉を反しては酒を飲む。

酒を注いで遣る女がある。

男と同年位であろう。黒繻子の半衿の掛かった、縞の綿入に、余所行の前掛をしている。

女の目は断えず男の顔に注がれている。永遠に渇しているような目である。

目の渇は口の渇を忘れさせる。女は酒を飲まないのである。…

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この本について

鍋がぐつぐつ煮えるなかで、すばしこい箸の男、ほとんど食べずに男を見つめ続ける女、肉を夾む機会を待つ娘という三人の動きを描く。短く刻むような文体で、箸の往復と視線のやり取りに焦点を当てており、静かで細やかな読み味がある。

作者について

森鷗外(1862年2月17日—1922年7月8日)は、本名を森林太郎といい、日本の陸軍軍医総監であり、翻訳家・小説家・詩人でもあり、作家森茉莉の父である。若くして医師免許を取得し、ドイツ文学の翻訳を日本に紹介し、代表作『雁』(1911—1913)により、日本文学の近代化を主導した作家の一人とされている。

注釈の作り方

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